Chapter12「Hey!」
「自分は政府系のリキシャマンなので2ルピーで東京三菱銀行まで乗せていこう」とバグワンダスは思いがけない提示をしてきた。2ルピーというのは相場の10分の1以下だ。
僕は感動した。してしまった。
「インドで初めていい人に出会ったな」
田中君も感動している。
考えてみれば「政府系のリキシャー」というのを聞いたことがなかったし、2ルピーという値段もあり得ないのだが、その時の僕らは誰かに頼りたかったのだろう。
初めてインド人に親切にしてもらったことと、他のリキシャマンと比べものにならないバグワンダスの身なりの良さに、僕らは彼を完全に信用してしまった。
「この人信用できそうだし事情を話してみようか?」
田中君のこの提案に僕は心から同意した。
僕と田中君が事情を話すと、バグワンダスの顔はみるみるうちに険しくなっていった。
「許せない」
自分の身に起こったかのようにして怒ってくれるバグワンダスに 僕は再度感激した。
バグワンダスは、ジャイプールまで車で連れていってもらい、ホテルで1泊したので200ドルは無理だが残りの1000ドルは取り戻せる、取り戻そうと言ってくれた。
「大丈夫。心配しなくていいよ」
返金交渉をする上で一番心配だったのがヒンドゥー語だった。
英語に問題がないわけではないが、インド人の喋る英語は聞き取りやすいし、ボディーランゲージを使えばこちらの伝えたいことはなんとか伝えることができる。
しかし、ボスは僕らには英語で話してくれるが、仲間同士では当然ヒンドゥー語で相談する。
その内容を僕らは知りたくても知ることはできない。これでは交渉は有利に進められない。
そういうわけで、ヒンドゥー語を話せる洋子さんに相談しようと思っていたわけだが、思いがけずバグワンダスという強力な味方を得、僕はなんとかなりそうな気がしてきた。
バグワンダスは、日本人に人気のある「Delight India Tours(仮名)」という旅行代理店があり、そこで相談しようと言ってきた。そこの社長の奥さんは日本人なので僕らが英語で説明しきれない細かい部分は奥さんに通訳してもらおうということらしい。
「そうだ。君らガイドブックを持っていないか?たしかそこにDelightが載っていたんだ」
田中君が『地球の歩き方』をめくると、177ページの「わたしのおすすめトラベルエージェント」という読者投稿欄にたしかにDelightが載っている。
それによると、
《ガンガーラン・ホスピタルのすぐ近くにある Delight India Toursは旅行者の間で 口コミで人気が出ている。心温まるスタッフの誠意と信頼からだと思う。絶対おすすめ!》
と書いてある。
バグワンダスによると、Delightは日本でいうHISみたいなもので、信用できるという。
僕らがバグワンダスのリキシャーでDelightに向かって走っていると、左側を走っていた車の窓が突然開いた。
「Hey!」
あのにせ政府観光局のイタリア系だ。助手席や後部座席にも人が乗っている。
心臓が止まりそうなくらいびっくりするとはこういう感じを言うのだろう。
ただならぬ雰囲気を感じたのかバグワンダスはリキシャーを止め、イタリア系も車を止めた。
「ここで何をしているんだ?」
イタリア系は聞いてきた。
僕らはなんで逃げてきたのかや、払い戻しをしてほしいことなど正直に話した。デリー観光をしてくれたイタリア系には運転手には持てなかった親近感を感じる。
イタリア系は困った表情で、「飛行機(ネパール行き)のチケット代だけは払い戻せる」と言った。
バグワンダスに彼らに騙されたということを話すと、イタリア系とバグワンダスは険しい表情で何事かをヒンドゥー語で話していた。
話の内容はわからないが、「とにかく行こう」というバグワンダスのひと言で、僕らは再びDelightに向かうことになった。
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